モダンジャズ全盛期の伝説的なトランペッターで現在でも人気の衰えることのないチェット・ベイカー氏は、生涯にわたってV.バックの「6B」を愛用したそうです。
当時のレコードジャケットなどでもV.バックの6Bと一緒に写っているチェット・ベイカーを確認することができます。
音源がジャズのビギナーに勧められることが多いので過小評価されているようにも感じますが、音色や歌い回しでチェット・ベイカーよりも素晴らしいトランペッターはほとんどいないように思えます。マイルス・デイヴィスも、チェット・ベイカーのことをライバルと公言していたほどです。
ジャズは小さいマウスピース、浅いマウスピースという固定観念は捨てて、少し深めのカップのV.バック6Bでチェット・ベイカーの音色や演奏を研究してみるのも楽しいと思います。
もちろんクラシック音楽の演奏にも非常に適したマウスピースです。
リムはややフラットぎみで、やや幅広、リムのエッジは内側外側ともに落ちすぎてなく、素晴らしい形状です。
アンブシュアが安定して、かつ唇の自由度もあり、豊かな音色なのに高音域や長いフレーズなどでもバテにくい素晴らしいリムです。
V.バックの3Bや5B、7Bのリムは外側のエッジがやや落ちているので、バテにくさやアンブシュアの安定感では6Bのリムがより貴重な形状に感じます。
エッジからカップにかけて適度な「えぐり」が入っていて、リムの内径サイズ以上に音量や音色が豊かになるよう、カップの容量を増す配慮がなされています。
カップは同じV.バックのCカップに比べると少しカップ容量の多い「Bカップ」で、深すぎて高音域が出しにくいほどではなく、豊かでヨーロピアンな音色が魅力的な素晴らしいカップデザインです。
V.バックの3B、5B、7Bとは同じBカップでもカップの深さや形状が異なって、6Bの絶妙に深過ぎないカップは適度に輝かしい音色も得られて素晴らしいです。
カップ内は敢えてうっすらと旋盤の加工跡をヘアライン状に残してあって、カップの中で息の流れや響きが微妙に複雑な乱反射をすることで良い音色を生み出すという話も聞きます。
V.バックのBカップのマウスピースには、バックボアに「No.7(シュミットスタイル)」というやや広めのバックボアが標準で採用されています。
20世紀初頭にヴィンセント・バック氏が古いドイツのマウスピースのバックボアを意識してデザインしたもので、現在でも非常に評価の高いバックボアです。
Cカップの標準バックボアの「No.10(スタンダード)」に比べると明らかに豊かな響きで、非常に好ましいと思います。
豊かな音色ですが、息を取られすぎたり吹奏時の抵抗感が少なすぎるようなことのない、バランスの良いバックボアです。
高音域の演奏しやすさを損なわずに、サウンドがぼやけることなく、ドイツ風のリッチな音色が得られます。
さらにイントネーション(音程)の面でも優れていて、低音域から高音域まで音程のバランスに優れています。
サウンドは豊かで深みがあり、それでいてリム内径が大きすぎるマウスピースのように高音域が出しづらくないので、むやみに大きめのマウスピースを使うよりも良い結果が出せることも多いと思います。
旧刻印の6Bは現存数が少なく中古でも出回ることがほとんどないので、この時代のものということも含めてかなり貴重だと思います。
Cカップのマウスピースを使う方が多いですが、少し鼻が詰まったような浅い響きになりがちだと思います。
特にフォルティッシモで演奏したときに「ピャーー」と品格のない薄っぺらでドッチラケな音になって、共演者や聴いている人からヒンシュクを買われがちです。
Bカップは高音域をほとんど犠牲にせずに良い音色が得られますので、中高生や楽器初心者からトランペット上級者まで、クラシック、ジャズ、吹奏楽まで演奏するジャンルを問わず非常におすすめできるマウスピースです。
トランペットはCカップ、などという固定観念はかなぐり捨てて、もっとBカップのマウスピースが世に広まると、トランペットの「小うるさい」イメージも変わってくると思います。
V.バックの5C、6C、7C、そして5Bや7B、6や7が今ひとつしっくりきてない方や、3Cだと音色が薄っぺらく、3Bは高音域が出しづらいと感じている方にも非常に良い選択になると思います。
全体に良い状態を保っています。ところどころ極わずかな小キズとシャンク部にほんの少しポツポツとしたメッキ浮きが見受けられますが、どれもさほど気にならない程度のものです。