スコット・ラスキー氏(1953年〜2018年)は元シルキーの技術者で、主にマウスピースのカスタム部門を担当していました。
1990年代に自身のマウスピースブランドを起ち上げ世界中で非常に高く評価されていましたが、2018年に惜しまれつつ逝去されました。
驚異的なハイノートでは他の追随を許さないジョン・ファディス氏のマウスピースをデザインしたことが有名ですが、ドク・セヴァリンセン氏や故アドルフ・ハーセス氏も、ラスキーのマウスピースのデザインに協力したようです。
バレンボイムが指揮するシカゴ交響楽団の映像で、ハーセス氏がラスキーのマウスピースを使っているのを見たことがあります。ハーセス氏とはゴルフ友達でもあったようです。
初期はマウスピース製作のほとんどの作業を一人で行なっていたという話も聞きます。
ハンドメイド色が濃く1本1本に良い意味でのわずかな個体差もあって、同じ型番でも複数のマウスピースを所持している人も多いようです。
現存するオリジナルのラスキー・マウスピースはプレミアが付いて非常に入手困難な状況で、今後そういった状況がさらに加速しそうです。
まさに幻のマウスピースと化しています。
現在、ホルン、トロンボーン、テューバのマウスピースはラスキー氏の数値を元に他社が製作したものが発売されていて「ラスキー」というブランド名は残っていますが、トランペットのマウスピースは他社による復刻すら行わていません。
ラスキー氏自身によるハンドメイドの工程が多かったので、トランペットのマウスピースが今後復刻されても元のクオリティが保たれるかどうかはわかりません。
「65S」のメーカーが以前に発表していた仕様は、
リム内径 16.89mm(0.665インチ)
カップ 浅め
です。
リムの内径はV.バックの3Cくらいに感じます。
フラット気味なリム形状で、内側には適度なエッジが設けてあります。
リムエッジからカップにかけて、かなりえぐりが入っています。
リム外側のエッジも立ち気味な形状で、V.バックの3Cを意識したデザインのようにも思えます。
実際に唇に当ててみるとアンブシュアが安定するリム形状で、高音域や長時間にわたるハードな演奏でもバテにくいです。
カップはV.バックのEカップ程度の浅めのカップになっています。
リムからカップにかけてのえぐりはカップの容量を確保して音色の豊かさに配慮していると同時に、バテてきてもカップの内壁に唇が当たらない(底付きしない)という利点もあります。
ラスキーのカップは深い→浅いの順で「D」「B」「MD」「C」「MC」「S」「ES」と細かく分けられています。
「S」は浅めのカップですが、さらに浅い「ES」カップというのもあります。
カップ内には敢えて旋盤の加工跡をヘアライン状に残してあって、カップの中で息の流れや響きが微妙に複雑な乱反射をすることで良い音色を生み出すという話も聞きます。
スロート手前はわずかに広くなっていて、音色や抵抗感などのバランスが緻密に計算されています。
スロートの直線部分をやや長めに設けてあって、息の流れが安定して弱音時でも音がフラつかず、音の演達性が得られるデザインです。
バックボアはラスキー独自のこだわったデザインになっているようです。
正確なイントネーション(音程)と、演奏時に適度な抵抗感が得られ、最高音域を必要とされる場面でも音色を犠牲にしない程度に最大限の手助けをしてくれる、頼りになるバックボアです。
シャンク先端部分は通常のトランペットマウスピースとしては標準的か、わずかに厚みのある仕上げになっています。
シャンク先端の肉厚は薄めの方が良いと思われる方も多いのですが、薄め、厚め、それぞれにメリット、デメリットがあります。
やや厚めのシャンク先端だと、しっかりとした芯のある音色と吹奏感になることが多いように思えます。
サウンドは輝かしく存在感があり、高音域でもか細い音になるようなことはありません。
芯がある音で鳴りが良いという表現がピッタリくるように思えます。
高音域がとても演奏しやすく、ハードな演奏でも疲れにくいです。
ビッグバンドのリード奏者にも向いていると思います。
ヤマハなどのトランペットシャンクのピッコロトランペットにも相性が良いです。
息を入れた時のレスポンスが良く特に高音域が容易に演奏することができ、演奏者の限界点を上げてくれます。
吹奏楽のポップスなどでも威力を発揮してくれます。
V.バックの3Cを使っていてさらに高音域の限界に挑戦したい方、またV.バックの3Eはリムが丸っこくて吹きにくいと思っている方にもとても良いマウスピースだと思います。
浅めのマウスピースで高音域を吹きたいけど、リム内径は小さすぎないのが良いという方にもうってつけです。
全体に良い状態を保っています。ところどころわずかな小キズとリム外側の唇にまったく触れない箇所に少しキズが見受けられますが、どれも演奏にはまったく支障ありません。全体の銀メッキの状態も良好で、美しく輝いています。
マウスピースの表面とカップ内からバックボア、シャンク先端まで、綺麗に洗浄して適度に磨いてありますので、汚れなどの心配のまったくない清潔な状態にしてあります。
作りは全体にとても丁寧で、シャンク先端も精緻で美しく仕上げられています。